ものづくり補助金と最低賃金の関係とは?思わぬリスクも解説
ものづくり補助金では、従業員の最低賃金が「地域別最低賃金+30円」を満たしていることが必須条件です。申請時だけでなく事業期間中も継続確認が必要で、要件を満たさない場合は補助金返還のリスクがあります。


補助金・助成金を専門とする行政書士として、補助金申請サポート実績300社以上を有する。 慶應義塾大学卒業後、大手製薬会社での経験を積んだ後、栃木県・兵庫県に行政書士事務所を開業。『事業再構築補助金』、『ものづくり補助金』、『IT導入補助金』をはじめ、地方自治体を含む幅広いジャンルの補助金に精通。リモートを中心に全国の事業者の補助金申請サポートを行っている。
このコラムのポイント
- 地域別最低賃金+30円を下回る従業員が1名でもいると申請不可
- 最低賃金の理解・賃金管理・定期的な見直しが補助金活用には不可欠
- 賃上げ要件は申請時だけでなく、事業期間中も毎年チェックされ、違反すると返還のリスクがある
ものづくり補助金の最低賃金についての基本ガイド
出典:「最低賃金」誰のため、何のための最低賃金か、 今こそ発想の転換を
ものづくり補助金を受給するには、いくつか条件をクリアする必要があります。
その条件の中には、賃上げに関する要件もあるので気を付けましょう。
たとえば、事業場内最低賃金です。
出典:最低賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者支援事業
事業場内最低賃金が地域別最低賃金よりも、30円以上高い水準に設定する必要があります。
では、ここで出てきた事業場内最低賃金とは何でしょうか。
事業場内最低賃金とは何か
補助事業の実施場所で働く従業員に適用される最低時給が、事業場内最低賃金です。
補助金制度に申請し、利用したいと考えているなら、以下の要件を満たさなければなりません。
最低賃金の基準を満たすこと
ものづくり補助金では、最低賃金についての条件が定められています。
従業員の中で最も低い時給は、地域別最低賃金に30円を加えた金額以上でなければなりません。
これを満たしていなければ、ものづくり補助金の申請はできません。
どんな賃金が条件の対象になるか
どのような賃金の条件を満たしている必要があるでしょうか。
対象となるのは、下記のような支給額です。
- 基本給
- 職務手当
注意点として、下記は賃金の対象外となるので確認しておきましょう。
- 臨時賃金
- ボーナス
- 残業手当
- 通勤手当
- 家族手当
- 昼食手当
- 精皆勤手当
賃上げは継続的に確認する必要がある
補助金の事業計画期間中は、提出が必要なものがあります。
たとえば、賃金台帳です。
出典:賃金台帳
補助金に申請した事業者は、従業員に支払った賃金が条件を満たしていることを証明するため、毎年賃金台帳を提出する義務があります。
この確認作業は、事業計画終了時に一度しか行われないわけではなく、期間中毎年実施されます。
事業者は賃金管理を徹底しましょう。
要件を満たせなかった場合はどうなる?
最低賃金の要件をクリアできない場合は、どうなってしまうでしょうか。
この場合、補助金の一部または全額を返金しなければなりません。これはペナルティとみなされます。
ペナルティがあると、補助金の恩恵を十分に受けることができません。
こうした事態を防ぐためにも、最低賃金についての理解を深め、正しく守ってください。
参考:最低賃金について
ものづくり補助金と最低賃金に関するFAQ
Q1. 最低賃金を満たす必要がある従業員は常勤だけですか?
出典:パートとアルバイトの違いは?社会保険や扶養控除についても解説
A. いいえ。パート・アルバイトを含むすべての従業員が対象です。
最も低い時給の従業員が、地域別最低賃金+30円を下回ると要件を満たせません。
Q2. 最低賃金の基準を満たしているかのチェックはいつ必要ですか?
A. 申請時だけでなく、事業期間中の毎年確認されます。
年度の途中で最低賃金が改定される場合もあるため、随時見直しが必要です。
Q3. 途中で従業員の時給を下げた場合はどうなりますか?
A. 下げた結果、基準を下回った場合は補助金の返還対象です。
賃下げは基本的にリスクが高いため、避けるべきです。
Q4. 新しく採用する従業員も最低賃金要件の対象ですか?
A. はい。補助事業期間中に採用した従業員も対象となるため、採用時点で要件を満たす水準で設定しましょう。
Q5. 賃金台帳以外に提出を求められる資料はありますか?
A. 場合によっては、給与規程や就業規則の提出を求められることがあります。
記載内容が賃金台帳と矛盾していないか、確認しておきましょう。
ものづくり補助金においてなぜ最低賃金が重要か?
ものづくり補助金の申請において、事業場内最低賃金を適切に設定することは不可欠です。
事業者は地域別最低賃金の改定に注意しつつ、従業員の賃金が基準を満たしているかを常に確認してください。
それでは、ここからもっと具体的に最低賃金の要件への理解を深めていきましょう。
- 最低賃金の定義
- 最低賃金の計算方法
- 地域別最低賃金との違い
- ものづくり補助金の最低賃金についての注意点
これらについて把握しておけば把握しておけば、適正な賃金管理が可能です。
ものづくり補助金の制度を有効活用すれば、事業をさらに発展させられます。
参考:ものづくり補助金のご案内
賃上げの要件について
最低賃金とは、会社が働く人に支払うお金の最低の金額を決めたルールです。
日本では最低賃金法という法律に基づき、2種類設けています。
地域別最低賃金
都道府県ごとに決まっている地域ごとの最低賃金です。職業に関わらず、働く人全員に適用されます。
産業別最低賃金
こちらは特定の産業ごとに決まります。
特定の業種や仕事に従事する人たちに対して、最低限支払うべき賃金を決めたものが、産業別最低賃金です。
たとえば、製造業の最低賃金は○○円、サービス業は○○円、美容業界は○○円など、業種ごとに異なる最低賃金が設定されます。
参考:賃上げ・最低賃金対応支援
地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の違い
前述した通り、地域別最低賃金は、各都道府県で設定され、すべての労働者に適用される賃金です。
これに対し、特定(産業別)最低賃金は、特定の業種で働く労働者に適用され、その業種ごとに異なる賃金基準が設定されています。
特定最低賃金は地域別最低賃金よりも高いことが多く、特定の業界ではより高い賃金が設定されるでしょう。
このように、地域別最低賃金と特定最低賃金は異なる性質を持ちます。
参考:地域別最低賃金の全国一覧
ものづくり補助金の賃上げについての要件
ものづくり補助金を活用するためには、賃上げについての要件をよく理解しておく必要があります。
申請時に満たしておくべき基準になるので、注意しておきましょう。
簡単にいえば、賃上げの条件には、
- 給与支給総額
- 事業所内最低賃金の向上
が含まれています。
出典:【2025.8】ものづくり補助金の給与支給総額と人件費の違いは?給与支給額の計算方法も解説
とはいえ、賃上げをするといってもどの程度引き上げればいいかわからない事業者もいるでしょう。
そういった方に向けて、賃上げ要件のポイントを解説します。
給与支給総額の年平均1.5%増加
全従業員や役員への支払い額は、年平均で給与支給総額を1.5%増やす必要があります。
この賃金には、下記が含まれます。
- 毎月の給与、賞与、役員報酬
- 各種手当(残業、深夜、役職、地域、家族手当など)
退職金や福利厚生費、外注費などは含まれません。
たとえば、給与支給総額が4,000万円だった場合、これを1.5%増加させるには、毎年60万円賃上げをしなければなりません。
5年間の事業計画期間では、最終的に7.5%アップを目指す想定にします。
ちなみに、給与支給総額とは、企業やお店が従業員や役員に払うお金(給料やボーナスなど)を全部まとめた総額です。
会社の場合(法人)
全社員に支払う下記の費用を全部合計してください。
- 給料
- ボーナス
- ○○手当(交通費など)
もし1年より短期間(半年など)で計算するなら、その金額について、1年分だったらこのくらいだろうといったように予想して調整します。
個人事業主の場合
お店で働いている家族に支払う給料や、自分の仕事の収入から計算します。
事業所内最低賃金は地域別最低賃金の+30円
先ほど説明した事業所内最低賃金を、地域別最低賃金より30円以上上げる必要があります。
たとえば、東京都では現在最低賃金が1,163円です。ですから、1,163円にプラス30円し、1193円が最低賃金です。
これが東京ではなく別地域の事業者でしたら、その地域の最低賃金を基準とし、+30円にしなければなりません。
参考:法令検索 最低賃金法
賃上げのルール
会社やお店が従業員のお給料を上げたら、一時的ではなく3~5年間続けなければなりません。
賃上げ誓約書を締結する
ものづくり補助金を申請する時は、これから給料を上げますと明記した書類を提出します。
この書類はネットからも作成可能です。
特例がある
出典:新規事業を始める際に欠かせない「事業計画書」の解説・基礎知識・作成のポイント
ものづくり補助金には、基本要件に加え、追加の条件を満たす事業計画書を提出すれば、通常枠以外にも申請できる枠が得られます。
そのひとつが、回復型賃上げ・雇用拡大枠です。
この回復型賃上げ・雇用拡大枠は、厳しい経営環境の中でも、従業員の賃上げや雇用の拡大に取り組んでいる事業者を支援することが狙いです。
お店や会社の事業が厳しい状況でも、助けてもらえる可能性があります。
景気が悪いお店や企業にとって、従業員の給料アップは困難です。
また、人手不足で新人社員を雇いたくても、人件費がかかるので、それもまた難しい試みでしょう。
しかし、こういう時は特例がききます。この特例は、事業が大変な中でも頑張っている会社を応援することが目的です。
回復型賃上げ・雇用拡大枠を利用する際の追加要件
出典:ものづくり補助金5つの申請枠を紹介
回復型賃上げ・雇用拡大枠は、頑張っている事業者をサポートしてくれる枠で大変助かりますが、追加要件があります。
そのため、その追加要件をクリアしていなければ、回復型賃上げ・雇用拡大枠は利用できません。
では、どのような追加要件があるか見ていきましょう。
去年の利益が0かそれ以下
事業をやっていれば儲けが出るはずですが、不景気でうまくいっていないと儲けがなかなか出ません。場合によっては、儲けが0の場合もあるでしょう。
お店や企業が一年で稼いだお金から、いろいろな経費を引いた後に残るお金が儲けであり、利益です。
この利益が0かそれ以下、つまり赤字であることが追加要件のひとつです。
赤字であれば条件をクリアできます。
従業員が常にいる
ひとりだけでなく、共に働く従業員がいることが要件です。
ひとりだけで営業している事業者は不可です。
賃上げをしている
補助金を受け取った翌年の終わりまで、従業員に支払う給料の総額を1.5%増やす必要があります。
さらには、地域ごとに決められている最低賃金より、30円高くしなければなりません。
地域ごとに最低賃金は異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
参考:労働・賃金・雇用
最低賃金の計算方法
区分
判定方法
計算式
注意点
時間給の場合
時間給が最低賃金以上になっているか確認
ー
通勤手当・
残業手当などは
含まない
日給の場合
日給を所定労働時間で
割り、最低賃金と比較
日給 ÷ 1日の
所定労働時間 ≥
最低賃金
割戻し後の金額で
判断する
月給の場合
月給を
平均所定労働時間で
割り、最低賃金と比較
月給 ÷ 1ヶ月の
平均所定労働時間 ≥ 最低賃金
月給に含まれる
手当のうち、
毎月支払われる
基本的な賃金のみ
対象
対象賃金
基本給・職務手当・
資格手当など
ー
通勤手当・
残業手当・
ボーナスなどは
対象外
共通注意点
最低賃金を下回ると
補助金要件を満たさない
ー
地域別最低賃金の
改定があるため。
随時確認が必要
ものづくり補助金に関連する計算方法を、正しく把握しておきましょう。
適切に賃金管理を行うことで、補助金の申請がスムーズに進みます。
最低賃金が適用される場合、賃金の計算は次のように行います。
時間給の場合
時間ごとの給料(時間給)が、地域別の最低賃金以上かを確認してください。
日給の場合
1日の給料(日給)を1日の勤務時間で割り、最低賃金と比べてください。
計算式【日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≥ 最低賃金】
月給の場合
1ヶ月の給料(月給)を、1ヶ月の平均的な労働時間で割って、最低賃金と比べます。
計算式【月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間 ≥ 最低賃金】
この計算では、通勤手当や時間外の追加給料などを含みません。
基本給や資格手当など、毎月支払われる基本的な賃金だけが対象となる点に注意しましょう。
参考:最低賃金制度
ものづくり補助金の最低賃金要件についての注意点
ものづくり補助金の最低賃金についての要件を守りましょう。
守っていなければペナルティが科される場合があるので、十分に気を付けてください。
事前に知っておきたい注意点は、主に2つあります。
継続的に賃上げの確認をする必要がある
事業計画の期間中は、毎年賃金台帳を提出し、要件を守っているかどうかの確認を受けなければなりません。
これを行っていれば補助金を引き続き受けられますが、怠っていればもらえません。
賃上げしていなければ罰則の可能性がある
前述した通り、もし従業員に支払っている給与が最低賃金に満たない場合、差額を支払わなければなりません。
しかも罰則まであります。罰則があると事業者側のダメージが大きくなってしまうので、確実に回避しましょう。
例)
- 産業別の最低賃金を下回った→最大30万円の罰金
- 地域別最低賃金額に満たない賃金を支払った→最大50万円の罰金
これらが科せられてしまうと、補助金制度を使って良かれと思ってしていることが、裏目に出てマイナスになってしまいます。
特に、最低賃金は改定されることがあるため、気にしていなければ意図せず従業員の給与が最低賃金を下回ってしまうことがあります。
改定後の新しい最低賃金は、全従業員に適用されるため、最新情報には敏感でいましょう。
改定前に雇用した従業員でも、改定後は改定後の給料をもとに最低賃金を上げなければなりません。
気付かないうちに最低賃金が改定されていたということがないように、毎年最低賃金改定を確認し、必要なら賃上げを行いましょう。
前述したとおり、事業計画の期間中は毎年賃金台帳を提出し、要件を守っているかどうかの確認を受ける必要があります。
ものづくり補助金を受ける事業者の義務となるため、怠ると補助金を引き続き受けることができません。
事業者はこの要件をしっかりと理解し、守りましょう。
賢く賃上げするために考えておきたいこと
最低賃金が改定されて上がってしまうと、それに伴い、当然給料も上げなければなりません。
給料をいくらに設定するかは迷うところですが、給料はシフトや採用活動にも影響してくるので、慎重に検討しましょう。
ここでは、どのように賃上げを図るべきか、いくつかのポイントをお話しします。
他の会社と賃金を比べてみる
業種が似ているライバル会社など、身近にある企業がどれくらい給料を支払っているか比較してみましょう。
もし自分の会社の給料が他の会社より低いと、従業員が辞めてしまったり、募集しても応募がなかなか来なかったりします。
自社の給料は他の会社と比べてどうなのか?という部分を調べ、適切な給料を決めましょう。
社会保険を確認する
給料を上げたことで、パートやアルバイト雇用の従業員が社会保険に加入しなければならない場合も出てきます。
というのも、給料が88000円以上になると加入義務が発生します。
加入するかどうかは従業員の自由です。もし社会保険に入りたくない場合は、給料が88000円を超えないようにしなければなりません。
反対に、従業員が社会保険への加入を望んでいる場合はその意向を尊重し、手続きをしてあげます。
仕事を効率化する
賃上げするには経済的な負担がかかります。その負担を最小限にするためにも、もっと仕事を効率的に進められないか考えてみましょう。
たとえば、古い機械を新しいものに交換すれば性能が上がるため、効率的に作動し、結果的に仕事が早く進みます。
また、自動化できることは自動化し、無駄を省き、手作業を減らす試みを考えてください。
より少ないコストで業務を進められるようになれば、賃上げしても負担を減らせるでしょう。
採用方法を見直す
賃上げに伴い、新人採用にかかる費用を見直すのもおすすめです。
例)
採用のプロセスを効率化し、採用費用を抑える
求人サイトに募集を掲載するだけでなく、紹介制度やダイレクトリクルーティングなども手段とする
出典:ダイレクトリクルーティングとは?ダイレクトソーシングや従来の採用活動との違いを徹底比較
おわりに
本記事では、その要件と関連する注意点について詳しく解説してきました。
ものづくり補助金では、補助金を申請する事業者が従業員に適正な賃金を支払うことを促進するため、特定の最低賃金要件を設けています。
ものづくり補助金を受けるには、事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いことが求められます。これにより、従業員に適正な賃金が支払われるよう促進されるでしょう。
賃上げは一度したら無事終了というわけでなく、その後もずっと賃上げを維持してるかどうかが見られます。
賃上げをきちんと実行していることを示すために、毎年賃金台帳を提出してください。
要件を満たしているか確認されるので、しっかり準備をしておきましょう。継続的な賃上げが必要ということです。
もし最低賃金要件を満たさない場合、補助金の一部または全額の返還が求められることがあるので、慎重に行動してください。
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監修者からのワンポイントアドバイス
ものづくり補助金の「地域別最低賃金+30円」は申請時だけでなく、事業期間中も毎年チェックされる継続要件です。パート1名の時給漏れでも返還リスクがあるため、賃金台帳・給与規程の整合と最低賃金改定(月途中含む)の即時反映をルール化しましょう。

